熊本は
春 とか 秋 とかの
中間の季節が短く激しい

春めいてきたなあって思うと
桜は とっとと咲ききってしまう
さっさと花見をせねばならぬ
入学式を迎える頃には 葉桜

あっつー あつあつ
もう夏バイ とか思って
Tシャツで過ごした明くる日
しまいこんだ長袖のジャケットが
再び 要る
まあ 気性の激しいお国みたいで

とある暑い日
昼食にそうめんを買う
そうめんが 店の奥から 
目立つ売れ筋の場所へと
麺つゆとともに並び始めて
これまた 出まわり始めた
みょうがも買い求め

久しぶりにそうめんをゆでる
ぐらぐら沸かした湯の中に
放射状にばらけて沈んでいく
しょっぱいような 小麦の匂い
いく筋もの 白い線をかき混ぜていると
弟のことを思い出す

子供の頃
彼の背負った障害ゆえに
周囲の視線に 人一倍敏感だったわたし
哀れみ さげすみ 好意 悪意
こどもには 
わずかな目くばせで
わかるわけ

近所の遊び友達が 
地べたにお菓子をばら撒いて
弟に拾わせていた 
『食べろ』と
睨めつける わたし
目を合わさない あいつら
歪んで青ざめた 卑屈な顔つき

わたしを見た 弟は 
なんて 対照的な笑顔だったろう
音のない彼の世界は
まるで悪意や侮蔑が いっさい
入りこまないかのような

守ってあげる人は
きっとわたしだったのだ
父が去り
母が消え
残された彼
先にとついで
自分のことで
いっぱいいっぱいだったわたし

父に似て
ハンサムな顔立ちは
幼いころ
それはもうかわいくて
彼を連れて 結婚すると
言っていた こどものころのわたし

きょうだいなのにね
ぜんぜん守れなかった
子供のころのほうが
だんぜん守っていた
こづいたら 泣き出すような
小さな砦だったろうけど

わたしが こんなふうに
のんびりと ゆっくりと
日々を過ごせるようになるまで
生きていてくれたなら と思う
彼の大好きな
そうめんの味噌汁
いつでも作ってあげられるのに

そんなに早く 苦しんだまま
逝っちゃって
やっぱり
この世はかれには
すごくしんどかったのかなあ
最後は ほんとにほんとに
あっけなかった

みょうがを刻み
そうめんを洗い ざるにあげる
冷たい麺に
みょうがを浮かべたつゆを絡めて
すすりながら
弟の得意だった
ちょっとくたくたのそうめん汁を
また 思い出している

明日の熊本は
ふたたび 冷えこむそうだ


  弟は元気かと問う 旧友へ 
       その身罷りし 病の名言う


 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索